昔の中国怪奇小説
本を見ていて、中国は清の時代の怪奇小説で面白いのがあったので、紹介してみます。
載っていた本
「ちょっと気の利いた漢文こぼれ話」諏訪原研著 大修館書店
(お話の内容)
虚仮にされた化け物
曹竹虚という人が次のような話をしてくれた。彼の族兄が歙県から揚州へと旅をする途中、友人の家に立ち寄った。ちょうど真夏で、書斎に案内されて座っていた。その部屋はとても広々としていて爽やかだったので、夕刻になるとそこに泊まりたいと思った。ところが友人が言った。「ここには化け物が出るから、夜居てはいけないよ」と。しかし、曹族兄は強引にそこに居座ってしまった。
夜中に、何物かが扉の隙間からモゾモゾとうごめきながら入ってきたが、それはまるで一枚の紙を折って作った紙人形のように薄かった。部屋の中に入ってくると次第に広がって人間の姿となったが、なんとそれは女であった。曹族兄は少しも恐れなかった。すると化け物はいきなり髪をざんばらにして舌を出し、首を吊って死んだ幽霊の姿になった。曹族兄は笑いながら言った、「たかが髪がちょっと乱れていて、それに舌がちょっと長いだけじゃないか。別に怖がる程のものではない」と。化け物はいきなり自分の首を取り外して、机の上に置いた。曹族兄はまたしても笑いながら言った、「不気味な首がそなわっていてさえ怖くないのだ、ましてその首が無ければなおさら怖かろうはずがあるまい」と。化け物は打つ手がなくなり、たちまち姿を消してしまった。
曹族兄は揚州からの帰りに同じ部屋に泊まった。夜中にまた扉の隙間でモゾモゾとうごめくものがあった。ところが、化け物は顔を出した途端にペッと唾を吐き、「またこの間の興醒めした奴か」と言ったきり、結局、部屋の中に入って来なかった。
(「ちょっと気の利いた漢文こぼれ話」諏訪原研著 大修館書店より、お借りしました。)